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コロナ拡大と日本の病院事情

「葦の葉ブログ2nd」より転載

1. 日本の医療体制の固有性

かつてない勢いでコロナ感染が拡大しており、緊急事態宣言に慎重姿勢を続けてきた菅総理も、東京都など関東4都県知事からの強い要請を受けて、地域限定ながら緊急事態宣言を出しました。しかしその後も感染拡大は止まらず、緊急事態指定地域も拡大していますが、昨年4月の緊急事態宣言時とはかなり様子は違っています。緊急事態宣言が出されても、初回時のような緊張感はかなり薄れています。

1年以上もコロナと付き合ってきましたので、「馴れ」が生じて緊張感が薄れるのもやむを得ませんが、目下の日本にとっての最大の危機は、急増するコロナ感染者への対応を受けて、医療体制が崩壊の危機に瀕していることだろうと思います。

病床不足で自宅待機を余儀なくされたコロナ患者の中には、容体が急変しても治療を受けることができずに死亡したという例もいくつか報告されていずますし、コロナ病床設置のあおりを受けて一般病床が減らされ、コロナ以外の入院患者の治療や受け入れにも支障が出ていることも報告されています。つまりコロナ、非コロナいずれの患者の治療や受け入れにも支障を来すほどに、目下の医療現場は危機的状況にあるということです。

しかし国民の多くは、日本の医療がそれほど逼迫しているとは実感できずにいるはずです。地方の過疎地域では近くに医療機関がないという所も珍しくはないかと思われますが、過疎地域にまでは至っていない日本各地の大半では、居住区内には必診療科ごとに病医院や診療所があり、町のお医者さんとして日々診療に当たっています。

そしてこれらの住民に身近な町の医院や診療所では、コロナが猛拡大中の現在も、コロナ患者が押し寄せて対応に四苦八苦しているという事態は発生していません。それどころか、患者激減で経営が危うくなっているところすらあるという。

実はこうした医療体制はほぼ日本固有のもので、欧米とは異なっているという。日本の病院の数は8000でその8割は民間病院,欧州は各国ごとの病院数は不明ながらも、病院の大半は公立病院だという。アメリカの病院数は6000、人口が日本の2倍以上もある上に国土も広大、アメリカでは病気になっても病院にかかれる人は限定されているというのも、病院の数からも明白ですが、アメリでも病院の大半は公立病院だという。

以上は、RKB(TBS)ラジオの「朝ですラジオ」で聞いたものですが、以下の記事では、日本では8000の病院に加えて、10万数千もの診療所があることも報告されています。

冬のコロナ大感染、わかりきっていた危機になぜ日本は対応できなかったか ダイヤモンドオンライン 窪田順生 2021.1.14

当然のことながら、これらの町の医院や診療所の大半は民間です。日本ではなぜ医療機関の大半が民間なのか。医療保険制度が確立していることがその基盤をなしていることは言うまでもありませんが、おそらく日本では、医療保険制度が確立する以前から民間の医療機関が多かったのではないかと思われます。

調べたわけではなく、素人の感覚的な推測ですが、日本では江戸時代にはすでに藩医とは別に、然るべき知識(中国由来の東洋医学、後には西洋医学も加味)をもった民間の医者が日本各地にいましたので、民間医療の伝統が根付いていたという歴史的背景があり、明治以降もその伝統を受け継ぎ、民間医療機関が多数生まれたのではないかと思われます。

一方、医療費無料の国が多いい欧州では公立病院が中心になって医療体制を支えているそうですが、アメリカとは異なり、日本も欧州も国民の医療へのアクセスは基本的には公的資金によって保証されているわけです。違いは、受診する医療機関の選択の幅が広いか狭いかだろうと思います。

日本のように居住地の近くに診療所があるというのは、暮らしの安心を支える重要な要素の一つです。もしもこの体制がガラリと変わり、例えば、福岡市なら福岡市で市内にある多数の病医院を、各区ごとに区立病院として集約したと仮定してみましょう。

全診療科が一か所に集約されますので、複数科受診する場合は1か所で済みますので、これはメリットといえばメリットになりますが、ちょっと具合が悪いので、先生に診てもらおうといって、近くのお医者さんに行くというような受診の仕方は難しくなりそうです。

おそらく、余程のことがなければ病院には行かないということになるはずですので、多少は医療費抑制にはつながりそうですが、病気の早期発見、早期治療の機会を逃すことになる可能性も高くなるはずです。以前、西日本新聞にヨーロッパの高齢者施設の取材レポートが掲載されていたのですが、欧州では日本のような寝たきり老人は皆無に近いとのことでした。なぜかといえば、欧州では寝たきりになる前に亡くなられるからとのことでした。

欧州のお年寄りは存命中は元気に生活されているが、それが難しくなるとあの世に旅立たれるとは、理想的な最期だなあと思いましたが、日欧の老人の暮らしや健康状態の違いは具体的にはどうなのかとの疑問は解けないままでした。しかしこれを書きながら、ひょっとして欧州では、医療と人々の暮らしとの距離が日本よりは遠い、距離があるということが高齢者の最期とも関係しているのかもしれないとも思われてきました。

こう書くと高齢者は医者にはかからなくてもいいということなのかとのお叱りを受けるかもしれませんが、まずは明らかにすべきは、目下のコロナ禍で窮迫している日本の医療状況の根本原因ではないかと思います。

欧州では、感染者の数も死者数も日本とは比較にならないほどの桁違いの多さですが、昨年春先の感染爆発時のイタリアなどを除けば、医療崩壊や類似の状態には陥っていないようです。その最大の理由は、欧州では主たる医療機関が公立病院であったという点にあることは言うまでもありません。

もしも日本でも、主たる医療の担い手が公立病院であったなら、現在よりはもっとコロナ対応の体制を強化できたであろうことは、容易に想像できます。小規模な診療所ではコロナ対応は物理的に不可能であることは言うまでもありませんが、入院施設を持つ病院でも私立病院では、政府にせよ自治体にせよ、民間病院にコロナ受け入れを強制することはできません。

そこで菅政権では、コロナ対応を促すために「病床逼迫地域においては1床空けるごとに(診療報酬とは別に)750万円から最大1950万円の補助金がつくことになり、感染対策の支援策も手厚く出」しているという。大阪大学医学部附属病院感染制御部医師 、森井 大一 氏が「東洋経済オンライン」に寄稿した以下の記事で紹介されていました。

起こるはずのない「医療崩壊」日本で起きる真因 各種データから読み解く「問題の真相」 2021/01/14

森井教授も私立の病医院が多いという日本特有の医療体制についても言及されていますが、政府は特別支援金を用意してコロナ対応への協力を呼び掛けていることを紹介して、今こそ医療機関の側がこの政府の呼びかけに応えるべきではないかとも訴えておられます。

菅総理は目下激しい批判の嵐に襲われています。菅総理には、確かに激しい批判を浴びるのもやむを得ない面も多々あることも確かです。あちこちに破れ目多数、日本は菅総理で大丈夫なのかとおそらく多くの国民も感じていると思います。しかし森井教授も指摘されているように、政府としては有効な政策も出しているので、呼びかけを受けた医療の側もそれに応える必要があるのではないかと思います。

ただ、コロナ患者を受け入れた病院などで、医師や看護師などのスタッフに感染者が発生した場合、また最悪死亡した場合などの補償も政府は責任を持つことになっているのかどうか。あるいは、多数の感染者が出て病院閉鎖に至った場合の補償なども政府は考えているのかどうか。最悪の場合も「750万円から最大1950万円の補助金」以外は何もないというのでは、民間病院にコロナ対応を求めるのは無理だろうと思います。

医療機関の数だけは世界最大規模を誇る日本で、コロナのような感染症の蔓延下では、対応可能な医療機関は公立病院が中心だろうと思われますので、おそらく全数の2割ぐらいしかないはずです。その結果日本では、欧米より桁違いに感染者の数が少ないにもかかわらず、欧米以上に医療機関の逼迫度が高まってしまっているわけですが、我々国民は今初めて、この現実に気づかされたわけです。

マスコミでは医療機関の逼迫ぶりについては毎日のように報道していますが、「逼迫」の背後にある日本特有の病院体制についてはほとんど報道しておらず、コロナによってあぶり出された日本の医療体制の脆弱性について、正面から報道したメディアはWEB以外にはないはずです。

日本の医療体制のこの脆弱性は、平時にあっては脆弱性とは意識されることはありません。緊急事態になると普段は全く表には出ない問題が一気に露になるのはあらゆる領域で起こりうることですが、日本の医療体制の脆弱性はその典型例の一つだと思います。

2. 緊急事態と日本政府

緊急時にその緊急事態に即対応できるか否か、それが体制の強度、政府の統治能力の程度を測る指標だと思われますが、今回のコロナ禍で露になったのは、医療体制の脆弱性のみならず、日本政府の緊急時における統治能力の低さです。緊急時の統治能力の低さとは、緊急時の緊急性を想定する能力の低さを意味します。

昨年の4月、安倍政権は緊急事態宣言を出しましたが、その一方、日本各地の公立病院の統廃合も強引に推し進めようとしていました。未知の感染症が拡大しつつある中で、公立病院の統廃合をするという感覚そのものが理解できませんでしたが、感染者がさらに拡大するという事態は全く想定していなかったのか、民間病院が感染者を引き受けてくれると想定していたのか、どちらだったのでしょうか。

小泉構造改革以降、官から民への掛け声のもと、公立病院の民営化や半民営化も進みましたが、公立病院を廃止しても医療費は減っていません。むしろ増加の一途をたどっています。今回のコロナ禍のような緊急事態下では、民間病院を拠点にコロナ対応体制を敷くというのは簡単ではありません。やはり国公立病院が責任をもってコロナ対応体制を敷くというのが順当だろうと思います。

しかし現実として日本では、数としては世界最大規模を誇る医療機関を擁してはいるものの、その8割は民間病院です。であるならば、この現実を前提にした緊急事態対応策を策定すべきだったはずですが、全く何の対策も指針も示されぬまま、感染拡大を後追いしつつドロ縄式であたふたと対応しつつあるというのが現実です。

感染拡大が一時鎮静化した夏場に緊急事態を想定した法整備なり、対策なりがなされるべきであったのに、この間になされたコロナ関連対策はアベノマスクというお粗末さ、と批判している識者もいました。振り返ってみると確かにそうですね。

さらに言うならば、この間、「桜」問題や河井克行夫妻をめぐる政治資金法違反問題などに対する、野党やマスコミなどの厳しい批判を封じるためか国会も閉鎖されました。検察庁人事への介入問題も後を引いていましたし、コロナ外の問題が余りにも多すぎました。

しかも熊本県球磨川流域を、かつてない超豪雨災害が襲いました。各地で災害ボランティアに関わっている方の話によると、この球磨川豪雨被害は3.11の東北で目にした被害と同等ぐらいのひどさだったとのことです。1000年に一度と言われるほどの超巨大地震と超巨大津波に襲われた東北地方の被害と同程度の破壊が、球磨川地域では豪雨だけで瞬時にして発生したということです。さらに悲劇は続き、コロナ禍でボランティアが入れず復旧がほとんど進んでいないという。コロナが沈静化し始めたので、近隣からのボランティアを募り始めた矢先に、再びコロナの感染拡大。近隣からのボランティアも全面中止。このニュースはNHKです。

次々と発覚する政治家の不祥事。加えて超異常豪雨災害。コロナに全集中できない状況が続いていましたが、今度は吉川元農相の収賄問題が発覚したばかりか、官僚まで巻き込んでの拡大版。この不正事件は鶏を健康的な環境で飼育せよという国際的なルールをめぐる問題ですが、これは養鶏業者と農相との間でだけなされる類の問題ではなく、国としてどう対応すべきかが問われている問題ですよ。賄賂で解決すべき問題ではないのは明白ですが、日本ではどんな問題でも政治家や官僚の利権と化してしまうらしい。ただし官僚にとっては、大臣の誘いや要請を拒否することが可能なのかどうかは大いに論議すべきところだろうと思います。

名前は忘れましたが、確かもう一人、つい最近、不正資金で自民党を離党した議員もいましたね。そして安倍総理の電撃辞任。コロナ感染の拡大が一時的にせよ沈静化した時期も、緊急事態に備えて法整備をし、体制を強化するどころではないドタバタ状況が続いていたわけです。そこに再びコロナの猛拡大!政府の対応は、ますますドロ縄式化度を強めざるをえないというのが今現在の日本です。菅政権はこの遅れを罰則の強化で対応する法案を国会に出していますが、締め上げる相手は国民ではなく、自民党を中心にした政治家ではありませんか。

そもそも日本の政治家は与野党とも、医療機関の数は大小含めて世界最大規模を誇る日本で、コロナ患者、非コロナ患者双方において、入院先が見つからず死亡する患者まで出ているという、世界に例のない日本の医療体制の固有性については、知らなかったのではないか。政治家としては、この重大な事実を知らなかったことは職務怠慢どころか、職務放棄に近い怠慢ぶりだというべきでしょう。無知のままでは緊急時に適正な対応策が立案、実行できないからです。

福岡県豊前町に出現した稲藁で作られたゴジラ 福岡県豊前町に出現した稲藁で作られたゴジラ (西日本新聞
緊急事態下の今は、日本のこの固有性を踏まえて、激甚化するコロナ感染拡大に対応できる体制をいかにして整えるか、その方策を緊急に具体化すべきです。その際、日本医師会や大学病院や様々な医療機関の団体や組織などとも緊密に連携、協力することは不可欠だと思います。ちょうど本日(1/20)、医療関係の6団体が会合を開き、連携してコロナ対応に当たることになったという。

菅総理は記者会見には尾身会長を同席させて、尾身氏に専門家としての解説をお任せしていたのは一歩前進だと思いますが、先日の会見で尾身会長が政府への要望として、コロナ感染者に関する疫学的知見・情報を開示してほしい。疫学情報が入手できなければ、コロナウイルスの特性を詳しく把握することができないという風なお話をしておられましたが、政府の専門家会議の会長にすら、コロナウイルスに関する疫学情報が開示されていないという、政府の異常なまでの閉鎖性に驚いてしまいました。

この閉鎖性は、あらゆる情報を官邸で独占するという安倍政権以来の政権運営の特性に加え、感染症対応を担う組織がなく、急ごしらえの内閣府で対応していることが背景にあるのではないかと思われますが、公開性、開放性こそがもっとも有効な感染症対策であることは、台湾がその実例として示してくれています。

域内感染「ほぼゼロ」の台湾にみる、正しいコロナ対策  ダイヤモンドオンライン 2021/1/19(火) 

日本がコロナ感染拡大で、台湾から「今すぐ学ぶべきこと」とは ダイヤモンドオンライン  2020/12/19

上記2編、与野党の政治家は全員、読むべきです。台湾ではプロ中のプロが政治を担っていますが、日本の政治家は素人集団というよりも、欲の皮だけは分厚く張った「子供」の集まりのような感じすらしてきますね。