「葦の葉ブログ2nd」より転載
安倍総理がイラン訪問中に起きたタンカー襲撃事件。いずれの立場からしてもタイミングが合いすぎて、不自然きわまりない上に、非常に後味の悪すぎる事件です。トランプ大統領の訪日1週間前にイランのザリーフ外相が訪日し、イランをめぐる緊迫した状況打開に向けて、日本側の協力を要請しました。このザリーフ外相の訪日を受けて安倍総理がイランを訪問することになったわけですが、この訪問がなければこの時期に、トランプ大統領が目の敵にしているイランを安倍総理が訪問することはありえなかったはずです。しかもロウハニ大統領のみならず、日本の政治家としては初だという、最高指導者であるハメネイ師との会談までセッテイングされてのイラン訪問です。
イランとしては政治的には最高レベルで日本の総理大臣を迎えたわけですが、その渦中に、安倍総理の顔に泥を塗るような日本のタンカーへの襲撃。いったい誰が・・・? アメリカはすぐさまイランの仕業と発表しましたが、イランは否定。常識的に考えると、いわばイランからの誘いを受けた形でイランを訪問した安倍総理を、イラン政府自らが世界環視の中で侮辱するようなことは100%ありえないはず。
アメリカがイランがやった証拠だとして公開した写真も不鮮明で、これだけではイランの革命防衛隊がタンカー襲撃をやったとまでは断定すること難しい。追加で、日本のタンカーに開いた穴だという写真も公開されましたが、部分を拡大したもので、日本のタンカーのものなのかどうかは全く不明。仮にこの写真が日本のタンカーのものだとしても、襲撃を受けてタンカーが損傷したという事実を証明してはいるものの、下手人がイランだとする証拠にはなりえないのではないか。最初に公開されたモノクロ動画のカラー版らしき動画や、これとは全く別の白いボートの写真も公開されていますが、これらもイランが下手人だとする証拠とは見なしがたいように思います。
もちろん、イランが安倍総理をわざわざ自国にまでおびき寄せて、世界環視のまっただ中で、その顔に泥を塗るような行為をしたと仮定することも可能であり、その種の論評もネットに出ていますが、もしも仮にイランがそこまでねじくれた手法を使ったとしたならば、その狙いは何か。
おそらく世界の首脳の中で、親トランプ姿勢を露骨なまでに鮮明にしているのは日本の安倍総理のみだといってもいいはずですが、その特殊な関係ゆえに安倍総理をおびき寄せたことになります。憎っくきトランプ大統領を熱烈に支持する安倍総理に大恥をかかせて失墜させるならば、米国外ではトランプ大統領を支持する首脳は誰もいなくなります。
というシナリオもありえなくはありませんが、いささか子供じみている上に、トランプ大統領はどれほどの批判を浴びても、孤立化しようとも、自説を曲げない、徹底して自己流を貫く人物のようなので、仮に安倍総理が失脚して世界で一人ぼっちになっても全く平気なはずで、ほとんど打撃にはならないはず。それどころかトランプ大統領は、タンカー襲撃以前に、安倍総理のイラン訪問に圧力をかけるかのような、イラン締め付け強化策まで発表しているぐらいです。
そもそも今回の安倍総理のイラン訪問をアメリカがすんなりと認めたことも不思議でした。トランプ大統領も親しい安倍総理ゆえに表だった反対はしなかったのかもしれませんが、安倍総理のイラン訪問を利用して、反イラン感情を一気に高めようとひそかに企んでいた可能性もゼロではありません。カネさえ貰えば何でもやるというイスラム原理主義者やその分派を使えば、タンカー襲撃など簡単でしょう。
あるいは、イラン国内の保守強硬派や反政府組織が仕掛けた攻撃の可能性もありえます。穏健派といわれているロウハニ大統領とは敵対する人々です。彼らは和平に向けた日本の仲介は無用だと考えているはずですので、この会談をぶっつぶそうとして、タンカー攻撃を仕掛ける可能性もゼロではないと思われます。
以上のように、タンカー攻撃の下手人を特定する決定的な証拠は今のところは未だないようです。日本政府も、イランの仕業だとするアメリカには同意しないことを表明しています。超親米安倍政権としてはきわめて異例の態度表明だと思われますが、日本の総理がイランを訪問したことで遭遇した想定外の事態は、我々日本人に重大な教訓をもたらしてくれています。タンカー攻撃がイランの仕業なのか、アメリカの陰謀なのか、あるいはイラン国内の権力闘争のとばっちりを受けたものなのか、いずれの理由によるものなのかは目下のところは判定できませんが、今回のイランをめぐる事件は、世界は日本の憲法とは真逆の原理で動いていることを白日のもとに晒しています。
日本国憲法の前文の後半部をあらためて読んでみたいと思います。
「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」
この前文は、戦争放棄を定めた9条の出所、根拠を示す日本国憲法の核心部分でもあるわけですが、日本国憲法の平和憲法たるゆえんは、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」初めて成り立ちうるものであるわけです。今回のタンカー襲撃は、犯人が誰であれ、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持」することは100%ありえぬという世界の現実を、平和憲法ボケしているわれわれ日本人に突けつけたということです。
日本は石油を中東に依存しているにもかかわらず、日本人にとっては中東地域は非常に遠い存在になっています。その距離感は地理的な問題ではありません。宗教対立が絡んで紛争が絶えないという彼の地特有の複雑さは、非一神教的なふんわりとした神道的あるいは仏教的宗教観の中で暮らしてきた大多数の日本人にとっては、まずその宗教的な先鋭さ、複雑さが理解しがたいということが中東地域と日本を隔てる最大の要因になってきたと思います。
しかし今回の安倍総理のイラン訪問に絡む事件の勃発で、その両者の距離が一気に縮みました。のみならず、石油という資源があるがゆえに、世界の火薬庫とも呼ばれるほどに紛争の絶えない中東地域と日本との関係の深さが、紛争絡みで急浮上させられたことで、おそらく戦後の日本人としては初めて、他人事としてではなく、今眼前で進行しつつある紛争をリアルに認識させられたのではないかと思います。憲法九条で果たして日本の安全は守られるのかとという、根本的な疑問が急浮上してきた瞬間に出会ったということです。
安倍総理も、外交で点を稼ぎたいという政治的思惑もあったはずですが、タカ派と呼ばれる安倍総理も、基本は日本国憲法的な姿勢でイランを訪問したはずです。あるいは日本人的な感性が外交でも通用すると考えていたのではないか。善意をもってすれば、相手も善意で応えてくれると。しかし世界の現実は、日本人的感性、あるいは日本国憲法的理念など瞬時に押しつぶす冷厳なものでした。押しつぶしたのがアメリカなのかイランなのか、はたまた反イラン政府勢力なのかは分からぬものの、この冷厳な世界の現実は、われわれの眼前にせり上がってきています。
もちろん、人命を危険にさらすタンカーを攻撃した犯人が誰であるかは、ホルムズ海峡の安全確保のためにも明確な根拠をもって特定する必要があると思いますが、イランやアメリカなどの当事者間では水掛け論に終わります。国連がすぐさま調査に動くべきですが、全く動く気配はありません。国連は、日本非難のための仕事はよくこなしていますが、こいう重大事態には動こうとはしない。何のための国連なのか。
ここで、日本国憲法の前文の残りを引用します。
「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」
この理念は今後も保持すべきだと思いますが、この理念も日本国だけでは実現不可能です。これは日本国憲法なので、アメリカの大統領は遵守すべき義務を負っていないとはいえ、トランプ大統領がアメリカンファーストを強引に推し進める中で、安倍政権は自国のことは脇に置き、アメリカンファーストに奉仕してきました。この奉仕によって、日本の主力産業である自動車産業も基本的には守られるのかもしれませんが、日本の犠牲(奉仕)が大きすぎるのではないか。
トランプ大統領に限らず、アメリカの歴代政権は、対日貿易赤字問題では政治的な交渉で日本に譲歩を迫り、赤字削減を実現するという政策を繰り返してきましたが、こういう手法での赤字削減は、皮肉にもアメリカの産業を衰退させる結果になっていることは事実が証明しています。政府を使った政治的な圧力で優位に立てるなら、企業は競争力を高める努力をしないからです。
現在では、日本以上に中国がアメリカの厳しい要求に晒されているわけですが、目下の問題は貿易赤字だけではなく、中国がデジタル分野でアメリカに迫る力をつけてきていることで、問題がより複雑化しています。トランプ大統領は、この問題においても鶴の一声を発して、中国を排除して日本をはじめ世界をアメリカに従わせようとしていますが、デジタルが人類史を画する前例のない特性を有する技術だとはいえ、産業技術の運用や有りようを専門家による議論を経ることもなく、大統領の一存で決することがアメリカにとっても世界にとっても望ましいことなのかどうかは疑問に思います。
確かにトランプ大統領の中国に対する警戒感は、基本的には正しいと思いますし、トランプ大統領の登場によって、それまではまさに世界中を我が物顔でのし歩いていた習近平中国も、多少なりとも反省を余儀なくされたのも事実であり、トランプ大統領のアメリカンファーストな言動が、時に世界に有益な結果をもたらしたのも事実だと思います。大帝国化しつつあった中国をも追い込むに至ったトランプ流の力の行使の仕方も、非日本国憲法的であることもいうまでもありません。しかし中国を潰してしまっても、アメリカが栄えるかどうかは大いに疑問です。対中問題でも、アメリカの優位を保持しつつも、ほどほどのところで共存共栄の道を探るべきではないかと思います。 参照:ベトナム、イラク、イラン…アメリカが繰り返す「悪のレッテル作戦」 イランの犯行を裏付ける証拠はない 参照:ホルムズ海峡、日本タンカー襲撃事件の“真犯人”は?
ところで、日産の西川社長に関する驚くべき事実が暴露されています。西川氏はゴーン氏以上に銭ゲバで公私混同もへっちゃら人物だったという。いくら司法取引で刑事責任は免除されているとはいえ、西川氏はこれだけの大騒動を起こした会社のトップでありながら、5億円という高額報酬を全く減額もしないその無責任きわまりない傲慢ぶりには驚いていましたが、昔からだったということが分かり、納得です。こんな人物が経営する会社など、存続する価値はありませんね。彼のやくざいっぽい面相は、大会社の経営を担う人物のものではないなあとは一目見た時から感じていましたが、人格が顔を作るという典型ですね。まずゴーン氏が同類の匂いをかぎとったからか、その西川氏を取り立てということですが、ゴーン氏追放後は、こんな人物をいったい誰が支援しているのでしょうか。日産の大株主がもしもアメリカ企業であったならば、こんな強引な捜査によるトップ追放はありえなかったはずです。情けない。
「文春」7月号 郷原信郎
◆ 2000万円や3000万円の貯蓄が必要だとの金融庁の審議会の答申をめぐって、年金問題がまたもや大揺れですが、なぜ金融庁で年金問題が論議されるのか、不思議です。高齢者の有する資産をいかに投資などに誘導するかという観点からなされたのかもしれませんが、年金問題で最大の難問は、高齢に近づきつつある、無年金か極小年金しかないような大量の非正規労働者の存在ではありせんか。
◆ 福岡では、北部九州の豪雨災害の被災者たちは、2年という期限を切られている仮設住宅を出て行かざるをえない時を目前に控えていますが、高齢者も多く、転居先を見つけられない被災者も大勢います。被災者は、福岡県に仮設住宅の入居期間の延長を繰り返し申し入れていますが、小川知事は、2年で出るという国の決まりは変えることができず、延長は難しいとの返答を繰り返しています。予算がないからなのか、決まりが邪魔しているからなのか理由はよくは分かりませんが、退去を求めるのであれば、代替住居を用意すべきなのではないか。自力で転居した人もいるので公平性の観点から全員自力でということなのかもしれませんが、自力で転居先を見つけられない人たちには、仮設住宅の入居期間の延長か、転居に際しての何らかの公的な支援が必要なのではないか。国ももっと柔軟に対応すべきではないかと思います。
「表現者・クライテリオン」【藤井聡】大阪都構想を巡る公明・維新の「党利党略」が導く、最悪の日本の未来